人は一日に何回選択している?「3万5,000回」の説は本当?
朝起きた瞬間から、私たちは選んでいます。
起きる?
もう5分寝る?
朝ごはんは何にする?
服はどれを着る?
メールを先に見る?
SNSを見る?
仕事はどこから始める?
昼ごはんは何を食べる?
買う?
買わない?
返信する?
あとでいい?
考えてみると、
一日は「選択」の連続
です。
では、人は一日にいったい何回くらい選択しているのでしょうか。
ネットでは、
「人は一日に3万5,000回の選択をしている」
という数字をよく見かけます。
ところが調べてみると、ここには注意が必要です。
「人間は一日に必ず3万5,000回選択する」と裏付ける確かな研究は確認できません。
一方で、食べ物だけでも私たちは自分で思っている以上に多くの選択をしている、という研究はあります。
今回は、
人は一日に何回選択しているのか?
という素朴な疑問から、
なぜ選ぶだけで疲れるのか
選択を少し減らすにはどうすればいいのか
まで考えてみます。
結論:「一日○万回」と正確に決めることはできない
まず結論です。
人が一日にする選択の回数について、
1万回
2万回
3万5,000回
などと正確に示せる、広く合意された科学的な数字はありません。
そもそも、
何を「一回の選択」と数えるか
によって数字が大きく変わります。
例えば朝起きて、
カーテンを開ける
という行動を、
1回の選択と数えるのか。
カーテンの、
- 右側から開ける
- 左側から開ける
- 半分だけ開ける
まで一つずつ数えるのか。
定義次第で数字はいくらでも変わってしまいます。
だから、
「一日に3万5,000回」と断定するより、「私たちは自覚している以上に多くの小さな選択をしている」と考える方が正確です。
よく見る「3万5,000回」はどこから来た?

「人は一日に3万5,000回決断する」という数字は、ビジネス記事や自己啓発系の記事などで広く使われています。
ただ、この数字について信頼できる一次研究を探しても、
人間の一日の意思決定をすべて数えて3万5,000回だった
という研究は確認できませんでした。
そのためこの記事では、
3万5,000回を事実として扱いません。
「それほど多くの選択をしている」という比喩的な数字として広まった可能性はありますが、出典がはっきりしない数字は、そのまま使わない方がよいでしょう。
でも「食べ物だけで200回以上」という研究はある

一方、実際に調査された面白い数字があります。
Cornell UniversityのBrian Wansink氏とJeffery Sobal氏らが行った研究では、139人に、
一日に食べ物や飲み物について何回選択していると思うか
を尋ねました。
参加者が最初に予想した平均は、
約14.4回
でした。
ところが、より細かく、
- 何を食べるか
- いつ食べるか
- どれくらい食べるか
- 何と一緒に食べるか
などを積み上げると、
平均約226.7回
の食に関する判断があると推定されました。
つまり、
「今日は何を食べよう?」
だけが食事の選択ではないのです。
朝ごはんだけでも選択だらけ
例えば朝ごはん。
食べる?
食べない?
ここから始まります。
食べるなら、
パン?
ごはん?
シリアル?
バナナ?
さらに、
コーヒー?
お茶?
牛乳?
砂糖を入れる?
量は?
もう少し食べる?
やめる?
こうして分解すると、
一回の朝食にも、たくさんの小さな選択
が含まれています。
だから「自分は一日10回くらいしか決めていない」と思っていても、実際にはもっと多くの判断をしています。
「選択」と「行動」は同じではない
これも大事です。
例えば、
いつもの歯ブラシを取る。
これは、
選択した
と言えるでしょうか。
毎日同じものを使っているなら、
何も考えず自動的に取った
ようにも見えます。
でも、
別の歯ブラシを取らない
という意味では、結果として一つの行動を選んでいます。
こうした無意識に近い判断まで含めるかどうかで、
一日の選択回数
は大きく変わります。
だから正確に数えるのが難しいのです。
人は「選んでいること」に気づいていない
食事研究で面白いのは、
本人の予想:約14回
細かく数えると:約227回
という大きな差です。
人間は、
大きな選択
は覚えています。
例えば、
- 車を買う
- 転職する
- 家を買う
- 旅行先を決める
など。
でも、
小さな選択
はほとんど意識していません。
朝から夜まで「小さな選択」が続く
一日の流れを考えてみます。
朝
起きる時間。
服。
朝食。
出発時間。
通勤・移動
どの道?
どの電車?
音楽を聴く?
スマホを見る?
仕事
どの仕事から始める?
メールを返す?
電話する?
休憩する?
昼
何を食べる?
どこで食べる?
夕方
買い物する?
帰宅する?
寄り道する?
夜
何を見る?
風呂に入る?
SNSを見る?
何時に寝る?
こうして考えるだけでも、
一日のほとんどが小さな判断
でできています。
スマホで「選択」はさらに増えた?
これは正確な回数を示す研究ではありませんが、現代生活では選択肢が多い場面が増えています。
スマホを開けば、
- LINE
- X
- YouTube
- ニュース
- メール
- ゲーム
- ネット通販
があります。
通知が来れば、
今見る?
あとで見る?
という選択も増えます。
以前より、
選べるものが常に目の前にある
生活にはなっています。
ネットショッピングも選択だらけ
例えば、
Tシャツを一枚買いたい。
ネットショップを開くと、
- 色
- サイズ
- ブランド
- 価格
- 素材
- レビュー
- 送料
- ポイント
を比べます。
選択肢が2枚なら簡単です。
でも100枚並んでいたら、
どれが一番いい?
と迷います。
選択肢は多い方が幸せ?
一見、
選択肢が多いほど自由でいい
ように感じます。
しかし、心理学では、
選択肢が多すぎると、かえって選びにくくなる場合がある
ことが研究されています。
有名な研究では、多すぎる選択肢が購入行動や満足感を下げる場合が示されました。
つまり、
選べること
は良いことですが、
選択肢が多ければ多いほど必ず良い
とは限りません。
選ぶだけで疲れることはある?
たくさんの選択を続けると、
もう何でもいい。
となることがあります。
メニューを長く見たあと、
「一番人気のでいいです」
となったり。
ネット通販を延々比較して、
もう買うのやめよう。
となったり。
American Psychological Associationは、実験研究について、選択を繰り返した人はその後の課題で持続力が落ちるなど、意思決定が精神的な負担になりうると紹介しています。
「決断疲れ」という言葉
こうした状態は一般に、
決断疲れ(decision fatigue)
と呼ばれることがあります。
たくさんのことを決め続けたあと、
- 面倒になる
- 先延ばしする
- いつものものを選ぶ
- 最も簡単な選択をする
といった状態です。
ただし、「意思決定には必ず有限のエネルギーがあり、使うたびに確実に減る」という単純なモデルについては研究上の議論があります。
なので、
人間の脳には一日○回までしか判断できない
という意味ではありません。
大事な決断ほど午前中にした方がいい?
よく、
大事な決断は朝にしよう
と言われます。
これも全員に当てはまる絶対的な法則ではありません。
眠気。
体調。
仕事の種類。
生活リズム。
などによって違います。
ただ、
疲れていると簡単な判断さえ大変になる
こと自体は珍しくありません。
APAの2021年調査でも、強いストレスによって「何を着るか」「何を食べるか」のような基本的な意思決定さえ難しく感じる人が報告されています。
選択を減らすと楽になる?

ここからが日常生活で使いやすい部分です。
毎日決めなくてもいいことは、
あらかじめ決めてしまう
方法があります。
例えば、
朝ごはん
基本メニューを固定。
仕事着
ある程度パターン化。
買う日用品
定番商品を決める。
スーパー
買い物リストを作る。
こうすると、
その場で考える回数
を減らせます。
「いつもの」を作る
飲食店へ行って、
毎回20分悩む人もいれば、
「いつもの」
で注文する人もいます。
いつもの商品。
いつもの店。
いつもの朝食。
いつもの服。
こうした定番を作ると、
小さな選択を省略
できます。
ただし全部固定するとつまらない
もちろん、
選択を減らせば減らすほど良い
わけではありません。
今日は何を食べよう。
旅行はどこへ行こう。
何を着よう。
という選択そのものが楽しいこともあります。
だから、
どうでもいい選択は減らして、楽しい選択は残す
くらいがちょうどいいのかもしれません。
「選ばない」も一つの選択
面白いのは、
選択しない
という行動も、一つの選択だということです。
今日は買わない。
今は返信しない。
決めるのを明日にする。
何もしない。
こうした判断もあります。
つまり、
人は行動するときだけ選択している
わけではありません。
無意識に選んでいることも多い
例えばスーパー。
いつもの牛乳。
いつものヨーグルト。
いつものパン。
何も考えていないようでも、
別の商品ではなく、それを選んでいる
ことになります。
人間は毎回ゼロから考えるのではなく、
習慣
を使って選択を省略しています。
習慣は「選択を自動化する仕組み」
毎朝、
起きる。
顔を洗う。
歯を磨く。
コーヒーを飲む。
ここで毎日、
顔を洗おうかな?
歯を磨こうかな?
と真剣に考える人は少ないでしょう。
習慣化されると、
考えなくても行動できる
ようになります。
これは、毎日の認知的な負担を小さくする仕組みとも考えられます。
仕事でも「テンプレート」は選択を減らす
例えばメール。
毎回、
どんな書き出しにしよう?
と考えるより、
基本のテンプレートを作る。
仕事の手順も、
まずA
次にB
最後にC
と決める。
こうすると、
毎回ゼロから選ばなくてもよい
状態になります。
メニューが多すぎる店で迷う理由
飲食店で、
メニューが5種類。
なら比較は簡単です。
50種類。
100種類。
となると、
本当にこれでいい?
となります。
選択肢が増えると、
選ばなかった方
まで気になるからです。
「隣のメニューの方がおいしかったかも」
という後悔も生まれます。
「おすすめ」がありがたい理由
Amazon。
Netflix。
YouTube。
飲食店。
多くのサービスに、
おすすめ
があります。
これは、
選択肢を絞る
役割もあります。
100個から選ぶより、
あなたへのおすすめ5個
から選んだ方が楽です。
もちろん推薦が必ず正しいわけではありませんが、
選択の手間を減らす
という意味では便利です。
人は「一番いいもの」を選ぼうとして疲れる
買い物で、
絶対に一番いい商品を買いたい
と思うと大変です。
価格。
性能。
レビュー。
デザイン。
耐久性。
全部比較。
するといつまでも決められません。
時には、
十分よさそうなら決める
ことも必要です。
100点ではなく80点で決める
人生の多くの選択は、
完璧な答えが分からない
ものです。
今日の昼ごはん。
服。
日用品。
こうした小さな選択なら、
80点ならOK
くらいにすると楽になります。
大事な選択だけ時間をかける。
この使い分けです。
選択を減らした方がいいもの
例えば、
- 朝食
- 日用品
- 日常の服
- 毎日のルーティン
- 消耗品
など。
毎回考えなくても困らないものです。
じっくり選びたいもの
一方、
- 家
- 車
- 仕事
- 高額商品
- 旅行
- 人生に関わること
などは、時間をかける価値があります。
つまり、
すべての選択に同じエネルギーを使わない
ことが大切です。
もし一日に3万5,000回なら、1秒に何回?
ここはあくまで数字遊びです。
仮に、
一日3万5,000回
選択するとします。
人が16時間起きているとすると、
35,000 ÷ 16時間 ÷ 60分
で、
1分あたり約36回
になります。
約1.7秒に1回。
かなり多い数字です。
これだけ見ても、
「3万5,000回」という数字を厳密な意思決定回数として受け取るのは難しい
ことが分かります。
実際には「数える方法」が問題
人間の判断は連続しています。
例えば車を運転すると、
- アクセル
- ブレーキ
- ハンドル
- 車間距離
- 信号
- 歩行者
を常に判断します。
これを、
1回の運転という選択
と数えるのか。
一秒ごとの判断
として数えるのか。
答えは全く違います。
だから、
人間は一日に何回選択している?
という問いには、
正確な一つの数字を出せない
のです。
それでも「選択が多い」という事実は面白い
数字は決められなくても、
食べ物だけで約200回以上の判断が推定された研究を見ると、私たちが、
自覚しているよりはるかに多くの小さな判断
をしていることは分かります。
だから、
今日は何もしていないのに疲れた
という日でも、
頭の中では、
これにする?
やめる?
あとにする?
を繰り返しているのかもしれません。
「選択できる」は自由でもある
ここまで選択を「疲れるもの」として見てきました。
でも選択できるということは、
自由がある
ということでもあります。
何を食べるか。
何を着るか。
どこへ行くか。
何を仕事にするか。
誰と過ごすか。
選択できるから、自分らしい生活を作れます。
大切なのは「選択をなくす」ことではない
目的は、
何も選ばない人生
ではありません。
そうではなく、
大事ではない選択に疲れすぎないこと。
毎日使う日用品は定番。
朝食は固定。
でも旅行先はじっくり考える。
欲しいカメラは比較する。
こういう使い分けです。
自分は今日、何を選んだ?
朝から思い出してみると面白いです。
何時に起きた?
何を食べた?
何を着た?
どこへ行った?
何を買った?
誰に返信した?
何を見た?
何をやめた?
たった数時間でも、
想像以上に選んでいる
ことに気づくかもしれません。
まとめ:回数は分からない。でも選択は想像以上に多い
「人は一日に3万5,000回選択している」
という数字はよく見かけます。
しかし、
この数字を確かな研究結果として裏付ける根拠は確認できません。
一方で、Cornell Universityが紹介する研究では、食べ物や飲み物だけでも、
一日平均約226.7回
の判断が推定されました。
つまり、
一日に何回か
を正確に言うことはできなくても、
私たちは自分で思っている以上に多くの選択をしている
ことは確かです。
そして、選択が多すぎれば疲れることもあります。APAも、選択を繰り返すことがその後の持続力などに影響する研究を紹介しています。
だから、
朝食はいつもの。
日用品も定番。
仕事は手順化。
など、
どうでもいい選択を少し減らす。
その分、
本当に大事なこと、楽しいことをじっくり選ぶ。
そんな使い分けが、毎日の生活を少し楽にしてくれるのかもしれません。
ハテナさんのひとこと

「一日3万5,000回」は確かな数字じゃないんだね!
でも食べ物だけで200回以上なら、思っている以上に毎日たくさん選んでいるのは確か。大事じゃないことは「いつもの」で済ませてもよさそうだね。
参考資料
- Cornell University / Evidence Based Living「So many decisions, so little time」
- Cornell Chronicle「’Mindless autopilot’ drives people to dramatically underestimate food decisions」
- American Psychological Association「Too Many Choices — Good or Bad — Can Be Mentally Exhausting」
- Iyengar & Lepper, When choice is demotivating(2000)

